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ころばぬ先の…介護保険

森 雅志 1996.10
 高齢化社会に対する大きな問題として、公的介護保険のあり方が浮上してきている。在宅介護サービス並びに施設サービスの充実のために新しい保険制度を導入しようとするものである。

 社会保障制度は年金、医療、福祉を三本の柱としているのだが、この中でも一番立ち遅れているのが福祉(介護)の分野である。介護施設やホームヘルパーは絶対的に不足しているのであり、どうしても家族介護に頼らざるを得なくなっているのであるが、介護にあたる家族の苦労も並大抵ではない。しかもその家族自身が老いてゆくという状況にある。家族介護は既に限界を越えていると言ってもよいのである。

 だからこそ介護を国民全体で考える「介護の社会化」を確立する必要が生じてくるのであり、介護保険制度の意義もここにあるのである。

 しかし、サービスを必要とする高齢者の数は増加する一方なのであり、だれがその費用(保険料)の負担をするのかという問題がある。現在の案では、保険料の負担をするのは四十歳からということのようであるが、負担世代が減ればそれだけ財源が限られ介護サービスの内容も不十分になることになる。そうは言え、二十代の若者たちに過度な負担をさせる訳にもいかない。負担とサーヒースの内容とのバランスをどう図っていくのかということは難しい問題である。

 また介護を必要とする程度によって受給サービスの内容も違うのだから、介護を要する度合いの認定も難しい問題である。認定の結果によって隣人同士で不公平感が生じるということも予想される。

 負担と受給の公平を保ちつつサービスの内容を充実させなければならないのであり、今後もっと議論を深めながら、しかし早期に制度を構築しなければならないと思う。

 一方、われわれ一人一人は今こそ社会全体の問題としてこのことを真剣に考えなければならないのである。そして、長く保険料を納めてきたのだから元を採ろうと考えるのではなく、介護のお世話にならずに生活できることの幸せを感じていく姿勢が求められているのだと思う。なによりも、今後できてくるシステムや福祉制度に必要以上に依存するのではなく、あくまでも自立しながら老後という「よき日々」を楽しもうとする姿勢こそが大切なのではないだろうか。(御身大切に。)