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大汝山山頂に立つ

森 雅志 2003.08.12
 久し振りに立山に行った。朝から雨が降り最悪の日であったが、日頃から山行きを重ねている職員に同行してもらって大汝山に登ることができた。なにぶんにも今年は剣岳に登頂すると宣言したものだから大変なのである。周囲からは「いきなり剣岳は無謀というものだ!」とあきれられたのだが、心優しくトレーニングメニューを作ってくれる人がおり、その一環としての最初の山行きがこの日の登山なのであった。
 あらかじめ登山靴から衣類、携行品の一つ一つについて子どもの遠足のようにメモをもらっていたのだが、前日になって初めて登山用具店に出向き呆れられながら一式を揃える体たらくであった。
 いずれにしても生まれて初めて登山靴を履き、スパッツなるものを付け、全身を雨具で覆い、ストックを手にし、リュックを背負って、僕の記念すべき第一歩は室堂から一の越に向けて刻まれたのであった。
 実に堂々とスタートした登山隊ではあったが、その後すぐに悪天候と極端に悪くなった視界に苦しめられることとなったのであった。僕自身は「八甲田山死の行軍」状態だと思っていたのだが、さすがに沈着な我が同行者はしっかりとペースを守りながら確実に僕を頂上へと導いてくれた。
 出会った人たちがお互いに声を掛け合うという山特有の雰囲気が実に心地よかった。何よりも大汝山の山頂に立つことができたことが嬉しかった。この山頂が県内の最高の標高地点だからである。もちろん剣岳の山頂に立つ日はまだ先かもしれないが、3015メートルの山頂を「征服」できたことは自信に繋がったと思う。同時に雨の中を黙々と歩いた時間が実に爽快であったことも僕にとっての収穫であった。
 立山は富山の財産だと僕らは言う。富山市は「立山仰ぐ特等席」だとも標榜している。それだからこそ僕らはもっと立山のことを知らなくてはならないと思う。何よりも実際に足を運んで見ることが大切なのだと思う。そうやってこそ多くの人に実感を込めて立山を語ることができるのだから。
 次回は八郎坂を上って弥陀ヶ原を歩くことを勧められている。そうやって経験しながらそう遠くない日に必ず剣岳に挑戦しようと思う。気分だけはいっぱしの登山家なのである。ヤレヤレ。
(残念なことが起きてしまった。過日雄山で転落した児童に対して心から冥福を祈りたい。荒野を生きる意思を育くむためにも、安全確保に努めながらの立山登山は大切だと思うが、今はただこの児童に合掌するのみ。)