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健康優良肥満児

森 雅志 2003.12
 謹賀新年。(今年も宜しくお願いします。)
 新しい年を迎えると誰でも何か心に期すものがあるものだ。僕は歳を重ねるにつれて家族の健康を考えるようになってきた。今年も一年間、家族が健やかであるようにと願わない人はいまい。もつとも、そう言いながら寝正月の果てに肥満化した身体で新年会シーズンに突入していくのである。まことに始末が悪いのだが、せめて今年は体重の管理に気を付けていきたいと思う。と言うのも、昨年の人間ドックで体重を3㎏落とすよう指示されながら今のところ逆に増えてしまっているからである。
 そんなこともあって最近体重に関する本を続けて読んだ。一冊は「太りゆく人類」(早川書房)であり、もう一冊は「デブの帝国」(バジリコ)である。どちらも面白かったのだが、読み進むうちに怖くなってしまった。肥満という問題は既に人類にとって大きな脅威になっていることを認識させられたからである。同時に自分自身が肥満気味ではなく、肥満なのだということを自覚することとなった。
 両書によれば、アメリカで太りすぎの成人は全体の6割以上を占め、日本でも2割を越えているそうである。中国ではこの10年間に肥満者数が6倍になったという。飢餓に苦しむ地域がありながら世界の多くの国で肥満が蔓延(まんえん)しているのだ。このままでは大量の成人病患者などを生み出すことになり、社会全体が医療費の負担に耐えられなくなるのではないかと危惧される。それどころか、高血圧や睡眠時無呼吸症候群につながるという意味では肥満は死に直結しているとも言える。
 そして世界に広がる肥満の波は大人だけでなく子供をも呑みこみ、糖尿病を患う子どもも急増しているのだという。毎日ファーストフードやジャンクフードを食べ、清涼飲料水を飲み、何時間も座ったままテレビゲームを続けていれば太らないほうが不思議というものだ。家庭の食生活においても高脂肪高カロリーの食品を摂取する割合が増大し果物や野菜、魚などの摂取量が減っている。「甘くない水は飲めない」と言う者まで出現している。
 そのうえ日常生活の中での運動量が加速度的に減少しているではないか。通学は自動車による送迎、体育の授業数は減少し、戸外で遊ぶこともなく、多くの家電製品はリモコン操作という具合だ。そうやって社会全体で体力のない健康優良肥満児を生み出しているのだ。
 子どもが少なくなっている状況の中でこのまま放置しておいて良いのだろうか。健全な身体を有する子どもたちを育むために、そして自分自身のためにも、僕らは直ぐにも生活の有り様を見直すべきではないのか。食生活を考え、充分な運動の機会を創ることを実践していかなくてはならないのではないかと思う。大人のためにも子どものためにも、先ずは歩くことが大切。子どもたちの車での送迎をやめ、今冬は雪道を長靴で登下校させましょう。