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サービスは難しい

森 雅志 2004.10
 旅客機の機内サービスは快適なものである。乗務員の接遇態度は良いし笑顔が爽やかなことも多い。なによりも、言葉遣いが乱れてきている昨今の社会の中にあって比較的正しい話し方がなされていることを評価したいと思う。また、小さな気配りも数多い。
 シートで眠ったあと眼を覚ましてみると、用があれば呼んで欲しい旨のメモがあることも気配りのあるサービスだと思う。時には短い時間でも眠っていたい時もあるのだから。ところがそういう時に限って機長の声で「ただいま当機は順調に飛行中。目的地の天候は晴れ…(云々)」などといった放送が流れるのだ。せっかく客室乗務員が気を利かせているのに操縦席から大声で話しかけられてはたまったものではない。頼むから機長による型どおりの状況案内はやめて欲しい、などと思うのは僕だけだろうか。
 もっとも機長にしても良かれと思ってのサービスなのであろう。順調に飛行しているから安心して欲しいとのメッセージなのだから良いサービスだと言う人もいるだろう。その意図は分かるのだけれど僕は過剰サービスだと思うのである。せっかく提供しているのに受け止め方によっては評価されないということの一例である。ここにサービスの難しさがあるのだ。
 買い物に際しても、商品の説明が欲しかったり似合いそうなものを薦めて欲しい時もあれば、逆に静かに商品を見比べたいので話し掛けて欲しくない時もある。一人一人の客の心理を読んで柔軟に接客してくれたら最高なのだが、サービスする側に立てばこれほど難しいことはないということになる。
 過日、ノーマイカーデーにバスで出勤した際に熱心な運転手に遭遇した。この人はバス停は勿論のこと、状況によって車が停車したり再発車したりするつど実に丁寧に「気を付けて下さい。止まります。」などと車内に声を掛けてくれるのである。バス停で客が乗降するつど明るく挨拶をしてくれるのである。もっともいささか過剰な面もあったのでこの人の気配りも客によっては評価が分かれるところなのかも知れない。そうは申せ、あるバス停で停車位置の少し手前で渋滞により止まっていた際に、「高校生のみんなが遅刻すると困るから…。」と言ってドアを開けて高校生を下ろした対応には驚いてしまった。おそらくバス停の前後の決められた範囲内でしか乗降させてはいけないことになっているものと思う。そんなこともあって少し躊躇しながらの対応ではあったが、臨機応変なサービスだと僕は思う。大切なことは遅刻しそうになっている高校生の心理に気付いたことなのだ。
さしずめ、サービス提供の核心は相手の心理を読んだうえで満足を産むために臨機応変に対応することだと定義することができるかもしれない。もちろん笑顔を忘れないで。
はたして市の窓口サービスはどうなのか。組織あげての再点検をしたいと思う。