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婦中鵜坂駅の誕生にあたって

森 雅志 2008.04.05
 去る3月15日、高山本線に新駅「婦中鵜坂駅」が誕生した。もっとも新駅とは言え、平成23年3月まで実施される高山本線活性化社会実験のための駅であり、いわば仮駅なのである。
 市は平成18年10月から高山本線の利用促進を図るために運行本数を増便させるとともに、駅舎の塗装やトイレの改築、駐輪場の整備をしてきた。約1年半の社会実験の結果、市の調査では富山駅・越中八尾駅間において約7パーセントの利用者増があったことから、さらに3年間第二期の社会実験を実施することとなった。おかげで3月のダイヤ改正からは、日中はほぼ30分間隔での運行が実現した。今後は速星駅や越中八尾駅において駅前広場の整備をすることも予定されている。そしてこの第二期社会実験のもう一つの目玉が先に述べた「婦中鵜坂駅」の新設なのである。
 西富山駅と速星駅の中間地点に新駅を作ることで新規の利用者を開拓したいと目論んでいるのである。新駅の付近には住宅団地も多く、また企業団地もあることから是非とも一定の利用者を確保したいと考えており、幅広い皆さんの理解と協力をお願いしたい。
 もっとも駅とは名ばかりで、単線である高山本線に沿ってその東側に約70メートルのホームを設置しただけのものである。したがってトイレもなければ券売機もなく、雨をしのぐ上屋も申し訳程度のものである。いかにも情けない駅なのである。それでも整備費が約1億5千万円も要したのだから、電気信号や安全のための装置というものがいかに高額であるかがうかがえる。
 利用者からお粗末な駅に対する苦情が出ることは容易に予想がつく。西側からも利用できるようにしろという声が出ることも確実だ。しかし、先述のとおりこの駅は3年間の社会実験のための仮駅なのである。実験期間を通して一日あたり新規に140人以上の利用がないと廃止されてしまう運命なのである。従って最初から質の高い駅舎を整備することには無理があり、必要最小限の投資とならざるを得ないことを理解していただきたい。先ずは確実に新規の利用者を開拓し、その上で実験終了後にも恒常的に駅が存続するような実績を作っていかなければならないのだ。
 近い将来、車に頼れない高齢者が増えることは確実であるだけに、いろいろな手立てを講じながら公共交通の質を高めていくことが重要である。今回の社会実験も、そして新駅の設置もそのための布石なのである。利用者が増えてこそ仮駅が本当の新駅となるのであり、その時こそ駅舎のあり方や機能について議論しなければならないと思う。
 なお、線路の一方向からしか利用できない駅は新駅に限らず沢山ある。速星駅、西富山駅、呉羽駅、東富山駅、水橋駅、笹津駅などがそうだ。反対側から利用するための跨線橋を作るには莫大な費用を要し簡単に手を付けられないのだが、将来の大きな課題である。