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苦行の山行を終えて

森 雅志 2009.09.05
 8月14日から16日にかけて野口五郎岳、水晶岳、赤牛岳を縦走してきた。あらかじめハードだと聞いてはいたものの本当に厳しい行程であり、まさに難行苦行の山行だった。
 苦しい登山ではあったが、富山市内の全ての山小屋を視察するという目標を達成したこととなるので充実感に満たされている。
 合併前の旧富山市には深山がなく、当然のこととして山小屋が存在しなかった。ところが合併後の新市には民間の経営による山小屋が12箇所、行政が設置した避難小屋が2箇所、合計14箇所の小屋がある。山岳観光の充実が言われ、環境の保護が叫ばれている状況を考えたときに、「なるべく早い時期に全ての山小屋を自分の足で訪れ、自らの目で見てみることが大切だ」と合併した年の夏、ほとんど発作的に、心に期したのである。
 もとより富山市の山岳の素晴らしさを、例えば黒部の源流の魅力を自ら体感することは大切なことであろう。それでこそ多くの人に山の魅力を語ることができ、誘客を図ることができるのではないのか。あるいは登山道などの現状を知ることも行政として果たすべき責務ではないのか。そんな思いも重ねながら平成17年の夏から山小屋巡りの登山を始めたのである。
 あいにく足掛け5年の期間を要してしまった。過密な日程の中で年に1・2度しか機会を作れないのだから無理もないのだけれども、もう少し早く達成したかったという反省もある。それでも全ての小屋に足を運び、経営者や管理人に会うことができた。(岐阜県側に存する施設ではあるが、富山大学双六山岳会が開いている双六小屋夏山診療所にも足を運ぶことができた。)
おかげで山小屋の抱える課題について改めて知ることができた。中でも整備の必要度が高いのがトイレのバイオ化だ。自然環境を守る観点からも利用客の使いやすさからも大切なことだと思う。そんな思いから国や県の制度に加え市の独自の補助制度を作り、経営者の皆さんに説明や要請を重ねてきたのだ。
 おかげさまで平成21年度には三俣山荘が市の制度を利用してトイレの改修をすることとなり、市が所有する白木峰避難小屋もバイオ水洗化の工事中である。また、雲ノ平山荘が平成22年度に市の制度を利用して改築予定となっている。ほかにも白木峰の木道整備の予算を倍増し平成22年度には整備を終了する予定である。
 今年は映画「劔岳 点の記」が公開された。そのこともあって北アルプスは大人気となっている。特に中高年の登山グループが目立つ。女性の登山客もまた多い。快適で安全な登山を楽しんでもらうためにも山小屋踏査の結果を今後に活かしていきたいと思う。
 山小屋巡りのおかげで市の最奥部までの距離感や黒部源流の素晴らしさを実感することができた。一方では強行日程の山行ばかりだったと反省もしている。これからは難行苦行の登山はやめて、楽しみながらの登山に徹しようと思う。もう若くはないのだから…。