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ほこりっぽい仕事

森 雅志 2011.07.05
 宮城県の南三陸町に行ってきた。東日本大震災の被災地である。発災当日、役場職員の女性が自ら津波に流される最後の瞬間まで防災無線で町民に避難を呼びかけていたという報道を記憶している人は多いと思う。彼女が命をかけて職務を果たした建物の残骸を前にして心が痛んだ。殉教者に頭が下がる。
 富山市はその町の要請に応えて、5月以来ゴミの収集運搬業務の支援を行っている。環境センターの職員がチームを編成のうえ、毎週交代しながら現地の避難所などを回りゴミの収集を行っているのだ。今回の訪問は現地で頑張っている職員を激励しようと赴いたものである。いつも見慣れている市のゴミ収集車が瓦礫の街を走っていることに不思議さをおぼえたが、いつもより堂々として大きく見えた。職員も車両も頑張ってくれていた。彼らの奮闘振りに感謝し慰労をしてきたという次第。
 彼らのみならず消防、上下水道、医師、看護師、保健師などの多くの職員が被災地に赴き献身的に職責を果たしてくれた。一部の職員は2月のニュージーランド地震以来、非常な活動が続き苦労も大きかったと思う。改めて感謝したい。頑張っている職員が誇らしい。
 さて、南三陸町ではゴミの収集業務については従前から民間業者に全部委託していたとのこと。つまりごみ収集の現場で働く役場職員がいないという状況なのである。そういう中でこういう大災害が発生するということは委託契約内容を超える事態に当面することとなり、結果としてゴミの収集業務が困難になっていた。そのため富山市の職員が派遣される状況が生まれてきたという次第。全国的には、ごみ収集などの現場作業の全てを民間に任せているという自治体が多くある。その結果、今回のような支援に対応できる自治体が少なくなっており、富山市の派遣部隊が重宝がられているということだ。富山市の部隊のメンバーは全員、市の職員なので公務員としての職責を有し使命感に溢れている。非常事態にも対応できる戦力となっている。ここが重要なポイントである。全国の自治体は行政改革の波にさらされ、多くの業務について民間委託をしてきている。中でもゴミの収集については富山市も例外ではなく、一部を民間にお願いしている。現業は民間に任せるという考えが一般的になっているのだ。しかし、本当にそれでいいのか。非常事態対応に際しては人件費コストだけでは割り切れないものがあるのではないのか。やっぱり市が直接採用した職員による部隊が必要ではないのか。そんな思いで毎年一定の人数を直接採用してきたが、今回の支援によってそのことの妥当性を再確認できた。いざという時に即応できる部隊を持っていることが大切なのだと思う。
 富山市の派遣チームは現地の焼却センターの一室を借りて宿舎としている。その宿舎まで富山から持参したかまぼこや白えびなどを届けた。一日の業務を終えた彼らは爽やかな笑顔で迎えてくれた。全員が目を輝かせている。住民の皆さんから感謝されてやりがいがあると語ってくれた。再度派遣されることがあれば喜んで赴くとも言ってくれる。本当に頼もしく、ありがたいことだ。埃っぽい仕事を誇りっぽい仕事にしている。いや誇れる仕事にしているのだ。奮闘に感謝する。
 帰り際に急に気が付いた。酒の肴を持参しながら肝心のものを忘れていたことに…。