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地場もん屋繁盛記

森 雅志 2011.12.05
 全国の都道府県の中で野菜の出荷額が一番小さいのが富山県であることはあまり知られていない。つまりわが県の農業は米ばかり生産していて、野菜などをあまり栽培していないというのが実態なのである。その背景としては、県内の農家の多くが兼業農家であり農業以外の仕事も持っていることから、現場での作業時間や従事日数が少なくても耕作できる米作に特化してきたということがある。野菜は米以上に手がかかるうえに市場価格も安定していないことから栽培が敬遠されているということなのだ。
だからと言って、このまま野菜があまり出荷されない状態が続いてよい訳ではあるまい。やはり新鮮で美味しい野菜が供給される地域であるほうが望ましいことは当然であろう。
 大切なのは農家の皆さんが休耕田などを活用しながらもっと野菜を栽培してくれることなのである。そのためには栽培された野菜が売れる環境を作らなくてはならない。地元で採れた野菜を地元の消費者が買うという状況を作らなくてはならないということである。いわゆる地産地消の環境作りということだ。
そこで、数年前から「地場もん屋」というのぼりを掲げた市内180店ほどのお店と連携しながら富山産の新鮮野菜の販売に力を注いできた。そして数ある「地場もん屋」の本部にあたるのが昨年10月に総曲輪通りにオープンした「地場もん屋総本店」なのである。
 開設以来1年を経過した今、ここらで総括してみるために現状を整理してみたい。1年間の実績は、来店者が222,935人(1日平均626人)、売上金額が約1億7600万円(1日平均約50万円)という状況である。開設時の目標は一日の来店者を280人、販売額を年9千万円としていたので予想をはるかに超える高成績となっている。出荷登録者は現在170名ほどであり、非農家の人のための農業技術学校である「楽農学園」の修了者や市民農園であるスローライフフィールドの利用者も出荷している。また、総本店周辺のレストランの要望に応じて西洋野菜を栽培出荷するという連携事例も生まれているようだ。見方によっては農業者のすそ野が広がったとも言える。
一方、購買者について見てみると、お客の9割は女性であり、また50才以上の人が85%、平日のお客の多くが常連のリピーターであり地場もん屋目的で来る人が多いということが特徴的である。市内の集荷拠点から総本店に野菜などが届くのが午前10時前後なのでその時間帯の来客がピークになっている。夕方はお惣菜などの加工食品目当てに仕事帰りと思しき来客も多くなっている。
品揃えについては少量ではあるものの多品種であり、ダイコンなどの葉付の野菜も喜ばれているようだ。また果実も種類が多彩であり、パパイヤやみかんなど富山では珍しいものまで出荷されているとのこと。さらには富山産の日本酒、ワイン、地ビールなども販売されている。極め付きは富山産の蕎麦から作った蕎麦焼酎まで登場してきたことだ。生産者に意欲が芽生えてきた表れと言えよう。
 今のところ総本店はまあまあ順調と言える状況ではあるものの、本当の意味での地産地消に発展させていかなくてはならない。そのためにも農業者の更なる取りくみや商業者の頑張り、そして消費者意識の高まりにも期待したいと思う。
(まずは自分自身がもっと野菜を食べなきゃね。ミネストローネでも作りますか。)