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ベテランドライバーの憂鬱

森 雅志 2012.09.05
 高齢者の実数が増えているのだから当然と言えば当然のことではあるけれど、高齢者の運転免許保有者の数が増えている。富山市における平成23年のデータでは、高齢者の総数に対して運転免許を持っている高齢者の割合は48.7パーセントとなっている。一方では、市内で発生する交通事故件数のうち高齢者による事故が占める割合は約4分の1となっている。幸いにも富山市内においては交通事故の全体件数が減少傾向にあることから、高齢者の事故も件数は減っているもののこの4分の1という割合に大きな変化は無い。冒頭にも述べたがこれからも高齢者人口は増えていく。そのことを考えると4分の1という割合が拡大していくことが心配される。
 また、ときどき報道されることがあるが高速道路を逆走したとか、ブレーキとアクセルを踏み間違えて駐車場から飛び出したとか、店舗に突っ込んだとか…、普通じゃ考えられない事故が起きている。こういうケースにおいても高齢者によるものが多いと思う。高齢者だから運転技術が落ちてしまったとか、判断能力が低くなったとかという問題ではなかろう。なぜなら高齢であっても颯爽と運転している人は多いし、年齢がもたらす落ち着きが安全運転に繋がっているというケースも多いと思う。そのことを充分にふまえた上で交通事故件数上の現状を述べてみた次第。
 あまり知られていないことだが、2012年1月に自動車事故の保険料が改定されている。そしてこの10月にはまた改定されることになっている。相次ぐ改定によって保険料が大幅に上がってしまうケースについては暫定的に激変緩和策がとられるようだが、例えば70歳以上の人の保険料の場合には引き上げ幅の抑制手当がなされない。全世代の保険料水準と比べてリスク実態が著しく高いためというのがその理由である。簡単に言えば70歳以上の人の車の保険料が高くなるということなのだ。また世代に関係なく次のような改定があるとも聞いている。いったん事故を起こすと向こう3年間の保険料が40パーセント程度高くなるというものだ。そしてもう一度事故があると3年間が6年間に延長されることになる。うかつに事故を起こすと毎年の保険料に影響するということ。だから仮に70歳以上の人が何度も事故を起こすと次の年からの保険料がかなり高額になりかねないということになる。ベテランドライバーにとっていささか憂鬱な時代になったということだろう。充分にご注意願いたいと思う。
 もとより交通事故を起こさないほうが良いに決まっている。そして事故を予防するもっとも効果的な方法は車の運転をしないことだ。暮らし方や住んでいる地域などによっては車の運転は必要不可欠だという人も多い。それでも思い切って運転をやめようと決めた人も増えてきている。富山市の事業である「高齢者運転免許自主返納事業」の申請者も年々増加している。絶対に運転なしには暮らせない人は仕方が無いとしても、そうでもないという皆さんは今回の保険料の改定を契機に考えてみてはどうだろう。一度家族で話し合ってみてはどうだろう。わが家の88歳の父にその話をしたところ「それもそうだな。そろそろ自家用車を廃車にしようか。」と言って僕を喜ばせた後、「でも畑に行くための軽トラとトラクターはやめられないからなあ。」と続けた。やっぱりね。でも廃車にする自家用車の分は事故リスクが減るのだからまあいいか。