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前を向いて胸を張れ!

森 雅志 2014.02.05
 第92回全国高校サッカー選手権大会において富山第一高校が初優勝をしたことは、まさに快挙であった。地元の選手が中心のチームが全国の強豪チームを相手に堂々と戦い、勝利を重ねていったことは僕たちを熱狂させてくれた。最後まで諦めない戦いぶりや不屈の精神は、すべての人に感動を与えてくれた。まずは素直に選手諸君の栄誉を称え、感動を与えてもらったことに感謝したいと思う。
 あの劇的な決勝戦の直後から多くの賞賛の声が上がり、報道でも彼らを称える記事や番組が続出したことは当然のことである。既に語りつくされたと言っても良いくらいに詳細な記事や特集番組が多くあった。おかげで僕らはみんなチームの大ファンになったし事情通にもなってしまった。それでも僕はここで僕なりの観戦記を書いてみたいと思う。
 僕が最初に彼らの試合に触れたのは準々決勝であり、これはテレビ観戦であった。その試合に勝ったことで準決勝、決勝戦と国立競技場に足を運んで観戦することができた。初めて行った国立であったが、おかげで大興奮の渦の中に身を置くことができた。
 観戦した試合を通して感じた一番大きな感動は、選手たちがどんな時にも顔を上げ胸を張っているという姿であった。そして若者らしい素直さや、けれんみの無さであり、羨ましいほどの生き生きとした表情である。僕らが失ってしまったものを見せつけられた思いであった。そして次は監督の冷静沈着な指揮ぶりである。敗色濃厚になっても決してうろたえない落ち着き。選手交代の妙にみられる戦力の把握と状況の分析力には脱帽するしかないと思った。リーダーの姿勢として学ぶことが多いと思わされた。審判団の姿勢にも心を動かされた。正々堂々とした、高校生らしい試合を成立させようと意を配していることがよく分かった。熱くなりそうな選手に対して落ち着きを求める仕草で指導をしたり、ファウルでぶつかった選手同士に握手をさせたりした姿勢は良かったと思う。
 そして国立競技場を埋め尽くした観客の声援にも驚かされた。終了間際の得点からは富山コールが地響きのように続いていた。スポーツの力を感じた。帰宅すると85歳の母が第一高校の勝利を興奮気味に語っていたが、サッカーのルールなど知っているはずがないのだから驚いてしまった。これもスポーツの力ということだろう。
 決勝戦では国立競技場の聖火台に火が点けられた。そして試合が終了して表彰式が終わるまで燃え続けていた。暮れなずむ西日の中で赤く燃え続ける炎が感動的であった。小学校6年生の時の東京オリンピックの開会式を思い出させてくれた。広島に原爆が投下された日に生まれた坂井さんという最終ランナーが右手を高く挙げて聖火台に点火した様子を覚えているが、その聖火台の下で選手たちが健闘を称えあっている様子を見て何故か目頭が熱くなった。選手も赤く燃えているように思えた。青春が眩しい。
 最後にもう一つ。それは第一高校という私学が野球でもサッカーでも全国レベルの活躍をしてくれたことの持つ意味だ。私学における建学の精神や地域密着という方針の素晴らしさを見せてくれたと思う。公立偏重とも言うべき富山県の教育界に刺激を与えたと思う。
 ところで、オフサイドのルールが難しいと思うのは僕だけだろうか?何度教えられても分からない。その意味では85歳の母と同じ、にわかサッカーファンということか。