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頑張れ!シングルマザーたち

森 雅志 2015.04.05
 テレビでやっていたメリル・ストリープのインタビューに見入ってしまった。作品によって身体つきまで変わったと思わせる大女優である。僕の大好きなスターなのだ。久しぶりに姿を見たなと思っていたら、何故か彼女がアカデミー助演女優賞を取った名作「クレイマー・クレイマー」を懐かしく思い出し、衝動的にDVDを取り寄せて見てしまった。
 やっぱり名作はいいなあと思う。メリル・ストリープとダスティン・ホフマンが初々しい。家族の問題をヒューマンな視点でとらえた傑作である。妻が家を出た後、慣れない家事に四苦八苦する夫の姿がいじらしい。フレンチトーストの朝食シーンが昔を思い出させる。長女が6歳だった時に亡き妻が長期入院をして、わが家も同じような環境になった。仕事をしながらの子育てに苦労した記憶が甦ってきた。それでも僕には両親がいた。食事の準備をまかせることが出来たのでフレンチトーストで火傷をすることはなかったのだ。
そういう意味では、一人きりで子育てをしている人の苦労はいかばかりかと思う。子育ての幸福感では埋めきれない大変さは容易に想像がつく。僕の周りにもシングルマザーが何人かいて、ときどき話を聞くことがある。そんな時に当事者しか分からないような悩み事に驚かされることがある。子供が運動クラブのキャプテンになったので母親が親の会の会長として頑張らなきゃいけないとか、高校の職業科に進学させたのは本当に良かったのかと悩んでいるとかといった話は家族で子育てをしてきたわが身としては実感に乏しい。ひとり親だからこその悩ましさなのだと思う。
 そんなひとり親家庭に少しでも手助けができないのだろうかと密かに思っていた。そんな思いが背中を押すようにして、昨年の4月に女性7人によるプロジェクトチームを立ち上げた。「シングルマザーが暮らしやすいまちづくり勉強会」というチームである。いろんな事例を調べたうえで富山市の施策として実現可能な提言をしてほしいと依頼したのだ。
 そして数か月後に様々なアイデアを出してくれた。今年度の予算にはその提言を受けて、ひとり親の子育て支援策として9件の新規事業が盛り込まれている。例えば、ひとり親家庭に対して学習支援ボランティアを派遣する事業だとか、ファミリーサポート・センターの利用料への助成金や、学童保育実施法人への補助金や、ひとり親応援子育て支援金支給事業などである。積極的にひとり親を雇用する事業者に市独自の奨励金を出すという施策もある。何といってもユニークなのは「がんばるママにありがとうと花束事業」だろう。ひとり親家庭の子供が親に対して感謝の気持ちを添えて花束を贈る費用を負担しようというのだ。女性チームならではの発想だと思う。最初にアイデアを聞いた時には思わず目頭が熱くなってしまった。女性の感性がいいなあと思う。どの施策も子育て支援策の決定打というものではない。既存の施策とあわせて総合力としての子育て支援策の充実こそが重要である。それでも今回の新規事業のように、子育て奮闘中のシングルマザーたちの気持ちがなごみ、明日からも頑張るぞ!と思ってもらえるような施策を女性チームが発案してくれたことを大いに歓迎したいと思う。もちろん課題はもっと根深い。母子家庭の平均年収は子供がいる一般世帯の平均の4割にすぎないというデータもある。それが教育格差を生むという難しい問題もある。みんなで考えるべき問題であろう。(以下、次号に続く)