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カエル・変わる

森 雅志 2016.02.05
 毎年のことだが、1月4日の執務始め式の挨拶の中で何かしらのキーワードを披露して1年間の目標とすることとしている。今年のキーワードとして「共進化」という言葉を使ってみた。はたして「共進化」とは何のことだろうと訝しく思った人がいたのではないかと思う。耳慣れない言葉だからである。
 「共進化」とは、元来、生物が他の生物に適応していく過程で、両方の生物がお互いに進化しあうという現象を意味する生物学用語である。例えば、ランの花が細長くなるのにつれてその蜜を吸う蛾の口器が伸びるといった、相互適応的な進化が起こることである。最近は経済学の分野でも用いられる言葉となっている。例示をすれば、家電製品が普及することによって、家庭における家事に変化が起きて、結果的に女性の社会進出が進んだことが分かり易い。北陸新幹線の開業によって街の賑わいや雰囲気が変わったことなどもまさに「共進化」と言えよう。
 このことを市役所という組織に当てはめてみると、職員一人ひとりが仕事のやり方を見直し定時退庁に努めることで、育児や家事、さらには自己研鑽に振り向ける時間が生まれるなど、私生活の質の向上につながることや、一人の職員の頑張る姿が周囲の職員に刺激を与え、職員同士が互いに高め合い、組織全体のレベルアップにつながるといった好循環が創り出されることを意味している。この「共進化」を意識しながら、職員一人ひとりが自分自身を、ひいては組織そのものを進化させることが出来るような年にしてほしいと呼びかけたのである。僕自身もこの「共進化」を強く意識する1年にしたいと思う。
 若干ニュアンスが違うのだけれども、昨年は久しぶりに「カエル・変わるコンテスト」という企画をやった。自己変革を促す取り組みとして、自らが目標を定め、その実現に向かって挑戦する期間を設定し、その達成度や質を評価するコンテストである。この企画は平成20年に実施して以来の2回目の取り組みであった。(もともとは市内のある企業が実施されていたものをそっくり真似た、パクリ企画であるところが情けないのだけれど…。)
 第1回のコンテストで最優秀賞となった挑戦は、働く妻を助けるために週5日夕食を作り続けるというものであった。料理経験の無かった者が、勤務を終えた後の時間をうまく使いながら1年間夕食を作り続けるということは並大抵のことではない。これをやり遂げたことは素晴らしいことだし、挑戦者は大きく成長したものだと思う。そして家族が「共進化」したに違いないと思う。今回の最優秀賞は、毎週休まずに児童養護施設である愛育園を訪れ子供たちと触れ合う活動を続けたという取り組みであった。子供たちの「人を信じる心」のためにもライフワークとして続けたいとのことである。親がいない子供や育児放棄された子供たちを励まし、やさしく見守る行為は崇高なものである。そしてそれを自分磨きのためにも継続することはまさに「共進化」だと言えよう。ほかにも素晴らしい挑戦が実践されたコンテストの結果を誇りに感じている。これからもカエル・変わる挑戦が展開されていくことを期待したい。
最優秀賞を受けた職員を激励しようと彼の職場に足を運び賞状を手渡した。その際に、自分の努力や子供たちの笑顔に思いが至ったのか、受賞者が思わず嗚咽を漏らした。その場にいた全ての者が深い感動を覚えたに違いない。このことをきっかけに「共進化」が始まれば良いのだが…。