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パルミラ遺跡を行く

森 雅志 2017.06.05
 4月15日(土)から7月9日(日)までの間、富山市ガラス美術館で「雲母Kira平山郁夫とシルクロードのガラス展」が開かれている。元東京藝術大学学長であり、文化勲章受章者である平山郁夫さんの絵画作品と、平山夫妻が昭和43年以来40年にわたって収集されたシルクロードの精華ともいうべきガラスの名品を展示する展覧会である。
 平山画伯の絵が好きだという人は多いと思う。わが家にさえリトグラフがあるくらいだから、印刷物を含めて作品を目にしたことのある人はかなりの数に上ると思う。その平山画伯が日本文化の源流を求めて二百数十回も足を運んだのがシルクロードである。そのシルクロード行の中で平山画伯はたくさんの幻想世界ともいうべき絵画を描き、同時に、古代メソポタミアから現代にいたるおびただしい数の絵画や彫刻、工芸品、そしてガラス作品を収集されたのである。その絵画や美術品が展示されているのが山梨県の八ヶ岳の麓にある平山郁夫シルクロード美術館なのだ。今回の企画はこの美術館の全面的な協力をいただいて実現することができた。おかげさまで得難い機会を持つことができたと言えよう。
 平山画伯のコレクション展を富山市ガラス美術館で開催できないだろうかと検討を始めたのは平成25年春のことである。この時点ではまだガラス美術館はオープンしていなかった。そんな時期なのに、ある方に紹介をいただいて平山画伯の未亡人であり平山郁夫シルクロード美術館館長でいらっしゃる平山美知子さんを鎌倉のご自宅にお訪ねしたのが同年の10月であった。その後、富山のガラス作家や関係者の皆さんとともに山梨の美術館を訪ねたりしながら、今回の企画展へのご理解をお願いしてきた。そんな背景があって実現した展覧会なので僕としても思い入れが深い。
 古代ガラスの伝世品は極めて数が少ないなかで、平山コレクションには、他には大英博物館にしかないような貴重な名品があり、それが今回の会場においてもさりげなく展示されている。また、富山市ガラス美術館館長の言を借りれば、現在の技術をもってしても再現できないような技巧的な作品が完品で収集され展示されている。そして、古代ガラスの制作地に関連する平山画伯の絵画が40点も展示されている。特に500号の大作、「パルミラ遺跡を行く・夜」と「パルミラ遺跡を行く・朝」が展示してある2階の展示室はまさに圧巻である。仮に平山作品にさほど興味がないと言われる方であっても、僕は是非にこの大作2点を前にしてほしいと思う。なんとしても鑑賞してほしいと思う。くどいけれど圧巻である。圧倒されると思う。強く、強くお勧めします。
 古代ガラスの世界的な名品と平山画伯の名画を同一空間で鑑賞できる機会はなかなかないと思われる。平山美知子館長の暖かいご理解を得て、この企画が実現できたことは富山市とガラス美術館にとって、また富山市民にとってこの上もない幸運であると思う。
 今、中東から中央アジアでは終わりの見えない紛争と混乱が続いている。そんな中で数多くの貴重な遺跡が破壊され、美術品が失われている。文化的な価値を否定する蛮行は人類史的な大損失をもたらしている。だからこそ、平山ご夫妻が収集されてきた文化遺産に言いようが無いほどの価値があるのである。そんな視点も含めてこの企画展に触れて欲しい。古代から人々を魅了してきたガラスはシルクロードをラクダの背に揺られながら遥かな旅を重ね、奈良の正倉院までたどり着いた。そんなことを考えさせる企画展でもある。是非とも足を運んでください。