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平成が終わる

森 雅志 2019.01.05
 年があらたまって平成最後の年を迎えた。あの日から30年が過ぎたのだ。昭和天皇が崩御されたのが昭和64年1月7日土曜日の早朝だった。その日から日本中が喪に服し、歌舞音曲を自粛し、静かにその死を悼んだのだった。僕はその時36歳だったが、起こったことを厳粛に受け止めつつ、初めて経験する歴史的な変化にいささか狼狽えていた。やがて元号が平成と定まり新しい時代が動き出したのであった。そして今年、あの日から30年の時が巡り今上天皇の退位が予定され平成の時代が終わることとなる。
 この平成という時代には大きな出来事がたくさんあった。例えば消費税のスタート、数次にわたる政権交代、小選挙区制の開始、郵政民営化、自衛隊の海外派遣、北朝鮮による拉致事件の表面化と一部被害者の救出などであり、昭和時代後半との大きな違いを意識させられる。東日本大震災や原発事故をはじめとする大災害の時代でもあった。いつも穏やかな天皇皇后両陛下のお姿のような表情を見せながらも時には荒れ狂う激動の時代であったと思う。
 わが家の次女は平成元年生まれである。したがって、わが家族にとって平成という時代は次女の30年の成長の時代であるとも言える。僕自身にとっても、亡き妻にとっても、長女にとっても、両親にとっても、同じように流れて行った平成の30年間である。それでもその平成の時代は次女にしてみると生きてきた全ての時間なのだ。今、僕は平成の時代を次女の成長をなぞりながら思い起こしている。いろんなことがあったけれどわが家の30年の歴史なのである。そしてわが家は大正生まれから平成生まれまでの各世代が揃って新しい時代に進んで行くのだ。

 元号が変わるという機会に天皇陛下が和歌をお詠みになると思われるのでここでおさらいをしてみたいと思う。
 天皇陛下の詠まれた和歌を御製(ぎょせい)といい、皇后陛下の詠まれた和歌は御歌(みうた)、その他の皇族の詠まれた和歌は、お歌(おうた)というのである。このことはあまり知られていないように感じる。あるいは誤って使われていることもある。情けないことだ。この際だから御製、御歌、お歌を使い分けることができるように理解しておきたいと思う。
 明治天皇は生涯に一万首もの御製を残されていて、和歌の天才だと言われている。大正天皇は漢詩をよくされ、詩集も発行されている。ちなみに天皇の漢詩は御製詩という。あまり知られていないけれど呉羽山に大正天皇の御製詩碑がある。一度ご覧になることを勧めたい。今は解散してしまったけれど、以前はこの碑を守るために婦負郡行啓記念会という社団法人があった。
 僕は皇后陛下の御歌を編まれた本を持っているので紹介したい。扶桑社から出ている「皇后宮(きさいのみや)美智子さま 祈りの御歌」(竹本忠雄 著)というもの。フランス文学者が御歌を解説しているもので奥が深い。良書だと思う。一読をお勧めします。