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発熱と注射の記憶から

森 雅志 2007.03.05
 注射が好きだという人は少ないと思う。僕もあまり好きではない。好きではないのだが注射信者でもある。風邪をひいて発熱したときなどに診察を受けて薬の処方だけで終わると物足りなくなる。注射がないと治らないのではと錯覚するのである。おそらく僕らが子供だった時代には注射ばかり打たれていたのかもしれない。ところが、いつの頃からかあまり注射をしなくなったようで、我が家の娘たちが小さかった時もあまり注射の洗礼は受けていなかったように思う。
 長女がまだ赤ん坊だった頃、夜間に発熱し慌てて救急医療センターに駆け込んだことがあった。その際に注射をしてほしいと素人判断を言ってドクターにたしなめられた記憶がある。思えば馬鹿な親であった。応急の処置をしてもらったのだから、安心して帰宅すればよいものを注射信者の悪い思い込みが出たのであった。恥ずかしい記憶である。
 僕が救急医療センターに行ったのはその時だけだと思う。幸いにも夜間でも電話で相談出来るかかりつけ医がいたからである。しかし全ての人がそういうかかりつけ医師を持っているわけではないので、救急医療センターの役割は大きいものがある。
 救急医療センターの開設者は富山市であるものの富山市医師会が管理者として運営されている。診療日は夜間が年中無休、昼間は日曜・祝日・年末年始などとなっている。診療時間は夜間が19:00〜6:00(休日は18:30から)、昼間が9:00〜17:30。診療科目は内科・小児科・外科であり(ただし外科夜間は週に四日のみ)、第2日曜日の昼間のみ皮膚科が追加されている。この診療体制は全国の中核市の中でも充実した体制であり、市外からの受診者も沢山いる。診療にあたっているのは富山市医師会の会員である開業医の皆さんであり、自分の病院で診療をした後にセンターに出向し、朝まで勤務のうえで翌日はまた自分の病院で診療をしているという実態である。休憩時間はあるものの33時間の連続勤務という厳しい状況となっており、開業医の皆さんの献身的な努力によって支えられているのである。医師会の皆さんに感謝、感謝。
 そもそも救急医療センターは発熱、咳、鼻水、下痢など軽症の患者を診察するところであり、点滴や入院が必要な中等症患者の診察は市民病院などの第二次救急医療施設が担当することとなっている。また、夜間・休日における急病に対する施設であり、市民の皆さんには適切な利用をお願いしたい。「昼間あるいは数日前から具合が悪かった」、「仕事が忙しくて昼の受診が出来ない」、「昼は混んでいるので受診するのが嫌だ」といった方の利用は厳に慎んでほしい。一刻も早い受診を必要とする患者の迷惑になるからである。
 当然のことながら、僕のような素人注射信者が献身的に診察しているドクターに対して処置に不満を言うなどということは絶対にあってはならないことなのである。猛省。


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