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祖父母と花束

森 雅志 2012.12.05
 11月18日から風変わりな施策を開始した。地鉄の市内電車やライトレールの沿線にある生花店で500円以上の花束を買って、その花束を持って電車に乗る場合は運賃を無料にするという仕掛けである。
表面的には市内の花き園芸農家の栽培意欲を後押しし、また販売する花屋さんを応援しようとする企画である。花きの消費拡大ということだ。しかし、その先に見据えていることは、毎日の生活の中で花を愛でる機会を増やし、花が溢れる街を目指すということなのだ。身近な人や大切な人に花を贈ること、家庭においてもっと花を飾ること、そういうことが毎日の生活を明るくしてくれ潤いをもたらしてくれる。そのことをちゃんと分かってはいても、直接花屋さんの店頭に足を運ぶ機会は少ない。何とかそこを乗り越えて、花に親しむことを日常化するためのきっかけ作りとして始めたサービスなのである。みんなが今よりちょっとだけ花を愛でる、それが集まって街が少しずつ花で溢れていく、そんな街になったら素晴らしいと思う。
だんだんと冬ざれてくる季節である。外套を着て背中を丸めて歩きがちな季節である。そんな富山の冬景色の中、彩りを添えるかのように花束を手にして街を歩く人がいる。花束を持って電車に乗っている人がいる。そんな街は美しいと思う。生活の豊かさを感じさせてくれる。花文化都市とでも言うべき姿がそこにある。みんなで花が溢れる街を目指していきたいものだ。
 僕は亡くなった妻の誕生日には毎年花束を贈っていた。もちろん花屋さんに届けてもらっていたのだけれど、それでも花瓶に生けられた花がわが家に彩りを添えてくれた。今から思えば花屋さんで買った花束を自ら手渡してやれば良かったのかなとも思う。花がわが家に届くだけじゃなくて、心も届けようとするのならそうすべきだったのかも知れない。花束を贈るということは心も通わせるということなのだ。これからは娘たちの誕生日にそうしてやりたいと思う。チョット照れくさいけどね。
 さて、7月から実施してきた「孫とおでかけ」という事業についても触れてみたい。祖父母と孫が一緒に科学博物館やファミリーパークに来館(来園)された場合に入館料を無料にするという企画である。高齢者の外出機会を促進するとともに世代間の交流を通じて家族の絆を深めようとするものである。祖父母と孫が一緒に出かけることで会話が増えてスキンシップが深まる。仮に離れて暮らしているとしても一緒に時間を過ごすことで心が近づく。そんなことを期待してこの取り組みを始めたのである。おかげさまで随分たくさんの方々にこの制度を利用していただいた。オジイチャンやオバァチャンと孫達が手を繋いで歩く姿や、楽しそうに笑いあう様子が目に浮かぶ。後から思い出して話し合うこともあるかもしれない。だったらということで、今度の1月からは天文台や博物館、民俗民芸村など多くの施設でもこの「孫とおでかけ」制度を利用できるようにしたいと考えている。
 花束を持って電車に乗ると無料という「花トラムモデル事業」も祖父母と孫で出かけると無料という「孫とおでかけ支援事業」も見ようによっては突拍子もない取り組みである。しかし、その目的は心の通い合いであり笑顔の創出ということなのだ。分かってもらえたならありがたいのだが…。 

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