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悲しき玩具

森 雅志 2014.05.05
 3月のバリ島出張でたいへんに良い収穫を得た。もちろん出張の目的であるバリ島タバナン県との交流の糸口を得たことが最大の収穫である。県内の民間企業とともに小水力発電の技術について現地で説明することができた。これからの技術交流の拡大に汗をかかなくてはならない。そのとおりである。しかし、この稿で言いたいのは全然違う収穫についてなのである。
 それはどんな収穫だったのか。小水力発電とは全く関係の無い、バリ島の伝統とも関係の無い、ラジコン・ヘリコプターについての収穫だったのである。
出張中に宿泊していたホテルの僕の部屋は1階であり、部屋から直接ビーチに出られる造りであった。滞在2日目の朝、部屋の前のビーチからモーター音が聞こえるので外に出てみると、白人の男性がUFOのような形をした物体を空高く飛ばしていた。ラジコンで操縦されていたその物体が着陸した後、その男性に性能や操作方法などを尋ねてみた。プロペラが4枚ついていて安定性が優れていることから空中を飛行しながら小さなカメラで撮影ができるという優れものであった。さらにその映像をスマートフォンに飛ばすことができるのであった。さすがに操縦させてほしいとは言わなかったものの、手にとって詳しく観察させてもらった。そして一瞬にして虜になってしまったのであった。
 帰国してすぐに、現地で撮影してきた写真を手掛かりに調べてもらったところ、商品名も性能も知ることができ、ネットで注文すれば購入可能とのこと。カメラ付きの商品の値段を聞いて、暫くの躊躇があったものの結局のところ購入を決めたのであった。
 知人に手伝ってもらって組み立てを終えると、早速に飛行訓練に着手。GPS機能付きのこのラジコンは操作が上手くいかなくなっても「ゴー・ホーム」ボタンを押すと飛び立った場所に自動で帰ってくるという高機能なのである。少しずつ操作能力が向上し、週末に時間が取れると広い空間を求めては飛ばして楽しんでいる次第。知人を誘っては操縦を勧めているのだが、ほぼ全員が夢中になってしまう。男という生き物はいくつになっても幼児性のかたまりだとつくづくと思わされる。新しいおもちゃに夢中になっている子供そのものなのである。
 この幼児性は生活用品の購入に際しても大いに発揮されている。たとえば室内を自走する掃除機が出たと聞くと欲しくなり、いやスティック型の軽量掃除機が評判だと聞くとまた欲しくなり、ダニなどを取る布団クリーナーが高性能だと紹介されると使ってみたくなるという具合なのである。まことに困った性癖なのだ。若い頃はこんな性格じゃなかったのだけれどもなぁ…。おそらく自分で家事全般をするようになってからこの性癖が現れたものだと思う。本来、手間をかけてこなすべき家事を、時間が無いことを理由に横着を決め込もうとするから新しい商品に目が行くのだろう。そろそろ自重しないと娘たちの目が厳しくなってきている。なにせ便利そうな調理器具を目にすると何でも買ってしまうのだから。それでも使いこなすというのなら許されるかもしれない。僕の場合は週に1・2度しか料理をしないのだからなぁ。大いに反省している。利用度の低い調理器具もかわいそうだ。何でも欲しがる子供の悲しき玩具になってしまっているのだから。



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