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春風に向かって

森 雅志 2016.04.05
 春である。僕は4月が大好きだ。新しい年も3カ月が過ぎて、何となくダレてきたこの時期に新年度に入ることから、もう一度気持ちのリセットができるからである。なによりポカポカと暖かい。樹木が芽吹き、桜が儚くも咲き誇り、いろいろなものが再生され甦ったような気持ちにさせられる。頑張るぞ!そんな気分にしてくれる良い季節である。
 そんな4月に中学に進学したり高校に入学したりした学生も多い。新しい学校に胸をふくらませて通学しているに違いない。中には新しく自転車通学を始めた者も多いと思う。フレッシュな新入生が、真新しい自転車に跨り春風に向かって目を輝かせて通学する姿を見かけるのは気持ちが良い。僕にもあんな時代があったのだなと懐かしくなる。そして失ってしまった若さを惜しむのだ。それだけに彼らの輝く若さが羨ましい。青春を精一杯謳歌してほしいと思う。
 もう随分前のことだが、僕の娘も新しい自転車に乗って高校生活をスタートさせた。新しい制服に身を包み、弾むように坂道を疾走していった姿が懐かしい。その様子を畑仕事の手を止めて祖父母がやさしく見送っている。絵に描いたような家族の情景である。ところがある日落ち込んだ様子で娘が帰宅していた。聞くと自転車が盗難にあったという。噂に聞いてはいたが本当に自転車の盗難があるのだな、と初めての体験に驚いた記憶がある。近所の交番に届け、やむなくもう一度自転車を買って通学していたのだが、ずいぶん経ってから交番から連絡があり、失くした自転車が見つかったと言う。警察官の日常のパトロール業務のち密さがすごいなと思わされた一件であった。高校生活のスタートに水を浴びせられた事件ではあったが、施錠をすることや定められた場所に駐輪することの大切さを学ばされた。軽い気持ちで一時借用しようとする不届き者が多いということも分かった。だから盗難の届けをしておけば見つかることもあるということだ。新生活に胸を躍らせている自転車通学の新入生に、老婆心ながら、施錠をキチンとしてほしいとの、余計なお世話に近い僕からの忠告でした。
 さて、タンデム自転車というものをご存じだろうか。1台の自転車にサドルが2つ、ペダルも2つついており、2人が縦列に並んで乗るという自転車である。親子やカップルが仲良く共同作業をしながら自転車を走らせる。まるで避暑地の出来事のよう。楽しくてワクワクする自転車だ。実はこの4月1日から、富山県内の公道でタンデム自転車の走行が認められることとなった。富山県警の前向きな判断で可能となったのである。全面的に通行が可能となるのは全国で12府県目である。そのことを受けて、市では今年度の予算でこのタンデム自転車を4台購入し、富山市総合体育館に2台、岩瀬カナル会館に2台配置することとした。5月1日から無料で利用できることとなる予定だが、詳細はそれぞれの施設に確認してほしい。このタンデム自転車、同乗者2人が呼吸を合わせながら走行することで絆を深めるための面白いツールだと思う。多くの人に楽しんでもらいたいものだ。
ところで、幾つになっても忘れない記憶の一つに、初めて自転車に乗れた瞬間の感動がある。僕の場合は友達が持っていた子供用自転車を借りて練習をした。初めて乗れた時にひたいで感じた爽やかな風と目にした風景を忘れない。爽やかな日だったなあ。(もう長く会っていないその友達のことを思い出すことはないけれど…。薄情者ということか。)



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