笹井宏之という歌人がいる。(短歌の詠み人なので歌人でいいのだろうなあ。)いや、いたと言うべきか。2009年1月に享年26歳で故人となっているからである。 チョッとしたきっかけでこの人の短歌を知り、何となく気になっていたのだが、先月歌集が刊行されたので急いで購入した。21歳で短歌を作りはじめ、26歳で生を終えてしまった作者の透明な感性が伝わる素晴らしい歌集だと思う。身体表現性障害という難病を発症し、10年間の療養生活のはてに短い生涯を閉じてしまった作者の思いに感動させられる。生と死を見つめる透明な悲しみ、その中で芽生えた恋心、家族に向けられる優しさ、そういった秀逸な歌が綴られている。 第一歌集「ひとさらい」第二歌集「てんとろり」、そしてその抜粋編とでも言うべき作品集「えーえんとくちから」の3作が同時に刊行されている。ぜひ一読されることを勧めたい。
(心にしみた数作品を勝手に紹介したい。)
ああそれが答えであった 水田に映るまったいらな空の青
次々と涙のつぶを押し出してしまうまぶたのちから かなしい
だんだんと青みがかってゆくひとの記憶を ゆっ と片手でつかむ
すこしづつ存在をしてゆきたいね なにかしら尊いものとして
生きてゆく 返しきれないたくさんの恩をかばんにつめて きちんと 眠ったままゆきますね 冬、いくばくかの小麦を麻のふくろにつめて
一生に一度ひらくという窓のむこう あなたは靴をそろえる
終止符を打ちましょう そう、ゆっくりとゆめのすべてを消さないように
しあきたし、ぜつぼうごっこはやめにしておとといからの食器を洗う
切れやすい糸でむすんでおきましょう いつかくるさようならのために
(嗚呼 なんという…。)
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