グランクラスに乗ってみました。 私用で上京した帰りに、北陸新幹線のファーストクラスであるグランクラスに乗ってみた。全部で18席あるシートは満席だった。僕はもうすぐ高齢者という一人旅であったが、多くの乗客は本格的な高齢者のカップルであった。例えて言えば、冥途の土産にグランクラスなるものに乗ってみますかな、といった感じの夫婦連れがほとんどであった。料金が高くても構わないさ、とにかく一度は乗ってみなきゃという人たちなのである。 その18席の乗客にサービスするためのアテンダントが二人乗車していた。東京駅を発車するやいなやこのアテンダントがおしぼりを配るなどのサービスを開始した。やがて「ヨウケイショクにしますかワケイショクにしますか?」と聞いてくる。僕は何のことなのか分からず一瞬ムムッとしたものの、すぐに洋軽食と和軽食であることに気付いた。隣の紳士も分からなかったらしく「ヨウケイシヨクとは何のことかね」と尋ねたのであった。すかさず彼女が「サンドイッチです」と答えると、紳士は「そんなら最初からサンドイッチはどうだと言えばいいだろう」と返したのであった。僕は「そうだ、そうだ」と内心で思いながらヨウケイショクなるものを注文していた。(ちなみに和軽食はお弁当であった。) 料金はすべて無料である。 もちろんアルコールも出る。当然のことながらこちらも無料なのである。僕は富山まで2時間しかないのだからと思ってビールを注文したが、隣の紳士は赤ワインを飲み始めた。 やがてアテンダントのお嬢さんがお代わりはどうかと聞きに来た。この話が面白くなるのはここからである。紳士とお嬢さんのやり取りを披露しながら話を進めることとしたい。
「何かね、何を飲んでもタダなの?」 「はい、すべて無料となっています。」 「何本飲んでも?」 「はい、いくらお飲みになっても無料でございます。」 「婆さん、孫のためにワインを4本ほど持って帰ろうかね。」 「お持ち帰りは困ります。」 「タダなら同じことじゃないのか。」 「車内でお飲みいただく場合には無料ということでございます。」 「きまりならしょうが無いな。飲めると思うから2本ほど持ってきてくれるかな。」 この後が凄いのである。紳士は配偶者と思しきご婦人に向かって次のように告げたのであった。
「婆さんや、あんたが持っているペットボトルはほとんどカラじゃから飲んでしまいなさい。その中にワイ ンを入れて持って帰ろうじゃないか。」 「そうですね、そうしましょう。」
そして、この二人はアテンダントの目を盗んでそれを実行したのであった。恐るべし老夫婦。 僕は笑いをこらえることができず吹き出していた。そしてその後も老夫婦の会話を楽しむことができたのであった。ある意味で、楽しい旅だったのである。 当然のことながら、グランクラスを先頭にした「かがやき」は富山駅まで順調に走り続けてくれた。そして、その老夫婦は。僕に続いて下車されたのであった。おそらく富山の人だったのだろう。恐るべし富山人と言うべきか。
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