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言葉のエピソード2「一万円からいただきます。」

森 雅志 2000.06
最近よく使われているが、僕としては気になってしょうがない言い回しがある。
それはレストランやコンビニなどでの支払いの際にしばしば使われている「一万円からいただきます。」という言い方である。この「……からいただく」という言い方が耳障りでならないのである。
例えば僕が300円の支払いのために千円札を差し出すと、かなりの確立で帰ってくるのが「有り難うございます。お客様、それでは千円からいただきます。」という言い方なのである。
しかしこの言い方は変だし、かつては決してこんな言い方はしなかったものである。
この場合、僕の感覚では「それでは千円をお預かりします。」とか「この千円でいただきます。」などと言うべきなのである。
この「…から」という格助詞は出発点や起点をあらわすものであり、例えば「この箱から出す。」とか「二時から始まる」とかいうふうに使うものである。従って支払いの場合において「以前よりお預かりしているあの一万円から頂きます。」というようにある特定の価値や会計上の費目から支出する場合には「から」の使用例として違和感のないところだが、目の前に差し出された具体的な「物」としての一万円札で支払いを受けようとするときには「一万円から」ではおかしいのであり、やはり「この一万円で頂きます。」とすべきなのである。(もしも、どうしても「一万円札から」支払いしようとする時は代金分だけお札を切り取ることになるのだろう。)
従って、以前から僕は支払いに際して若い諸君が「…から頂きます」と言うたびに、その言い方は正しくないと指摘してきたのだが、ほとんど無視されつづけてきた。あるいは「ウルセー オヤジだな!」という視線を浴びせられて来たのであった。我が娘からも「支払いの時に相手の人に話しかけるな。」と厳しく言い渡されるまでになっているのである。
最近はこの言い方の急速な普及に抗すべくもないことを悟り、なるべくお釣が発生しないように支払いをしようと懸命に努力しているのである。