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山男にゃ惚れるなョ

森 雅志 2003.10
 この六月から登山を始めた。登山といってもベテランアルピニストの後ろから何とかついていくという程度のことである。そうは申せ、登山靴に始まりスパッツ、リュックなどの用具一式に靴下から帽子までの衣装一式も揃えたのだから本格的である。どうせ続かないのにという声も聞こえてはくるが、本人は既にいっぱしの山男気分なのである。
 きっかけは冬の酒席において「今年の目標は剣岳に登ること」と突然に表明したことに遡る。今まで軽装で立山(雄山)に登ったことはあるが剣岳への経験はなかった。何故かは知らないが宴席で、越中男児たるもの剣山頂を知らずに老いていいのか?という考えが湧き上がってきたのだ。五十歳という年令を考えればチャンスは少なかろうと思い先の宣言となった次第である。
 無謀だと言う人も多かったが、応援してくれる人もいて六月の初登山となった。お蔭で大汝山という富山県内の最高標高地点に立つことができたのだった。そして僕は登山道を何時間も黙々と歩くという作業が実に面白く爽快なものだということを知ったのである。何も考えずにただ前進するという時間は心が開放されるようであった。筋肉の疲労感もかえって心地よかったのだ。あの山頂で僕は登山の魅力の一端を知ったような気がする。
 八月には立山の旧登山道である八郎坂を登り獅子ケ鼻を経て天狗平まで行くことができた。この後は雄山から別山、雷鳥沢への縦走を経験した上でいよいよ剣岳に挑戦する予定である。何とかは高いところに上りたがるとからかう人もいるが、僕は大真面目なのだ。快晴の剣山頂から富山平野を一望する瞬間を想う。その時、僕の精神もまた少しは澄み切った状態に近づくことが出来るような予感がするのだ。頑張ろうと決意している。
僕の山行はしばらく続くと思うが、この年になって未経験のことに挑戦するとは自分でも驚きである。考えてみれば世間では一般的であっても僕が手を染めなかったものはたくさんある。例えばスキー、テニス,ダンス、バイク、囲碁、陶芸などといった世界である。突然登山を始めたように、これからは新しいことへの挑戦に躊躇してはいけないのかも知れない。只今五十一歳、これからである。例えば自動二輪の免許というのも興味がある。もっとも山男はしばらくは山に夢中。いくら新しいことに挑戦すると言っても山で娘さんに惚れたりしないで静かに山行を続けたい。