過去のエッセイ→ Essay Back Number

ポートラムがやってきた

森 雅志 2006.05.05
 いよいよ富山ライトレールの新しい路面電車、ポートラムの運行が始まった。平成15年春に構想を発表してから満三年を経ての運行である。苦労が大きかっただけに、スマートな電車が市内を走る姿を見ていると感慨深い。よく短期間でここまで来たものだ。ひとえに大変なご支援をいいただいた多くの関係機関や企業の皆さんのお陰であり、なによりも市民の皆さんのご理解のお陰である。全ての皆さんに心から感謝申し上げる。
 富山ライトレールのように全車両に全低床車両を導入するという次世代型路面電車、いわゆるLRTの本格的な運行はわが国で初めてのものである。それだけに全国的な注目を集めていることも誇らしく感じており、市民の皆さんとともに喜びたいと思う。
 この三、四十年ほどの間、全国の地方都市の多くが自動車を中心にした街づくりを進めてきた。富山市も例外ではなく、否、それどころか全国一と言っても良いくらいの「クルマ社会」を作ってきたのである。その結果、車さえあれば住みやすい都市を形成してきたものの、見方を変えれば運転のできない人にとっては極めて暮らしにくい街となっているのである。同時に街の成長がどんどん郊外へ向かう形で進んだことから、中心市街地の人口密度が全国の県庁所在都市の中で最下位に位置するほどに拡散型の街となっているのである。結果として都市全体の活力が減退しているのである。また今後の超高齢社会のことを考えると、自動車に頼れないという交通弱者が急増していくことが確実だと言える。はたしてその時代にも今のような「クルマ社会」のままでいいのかと考えてみれば、自ずと公共交通を軸としたコンパクトな街を目指さなければならないことが見えて来るのである。
 もとより大変な時間と資金とエネルギーのいる取り組みである。多様な意見があることも承知している。方向は理解するが手法が無謀だとする意見も聞いている。他方、共感や支持の声もまた大きなものがある。背中を押してくれる強いエネルギーも感じる。そのどれもが市民の声なのである。僕らはその市民の声をしっかりと受け止め、自らの信念とする方向を分り易く説明し、理解を広げていかなければならない。時には説得も続けていかなければならないと覚悟している。
 その際に、今後の公共交通の重要性を実感してもらう材料として、目の前を走り出したポートラムの姿ほど説得力を持つものはないと思う。是非とも多くの市民の皆さんに乗車してみて欲しいものだ。そして、車も使うが電車やバスも利用するという暮らしを体感したうえで、数十年後の社会の有り様を考えて欲しいのである。きっと市電や北陸線、高山線、地鉄線などの鉄軌道を拡充することが必要だと分かってもらえると思う。
まずはポートラムに乗って下さい。ピッと音を出して運賃精算するICカードを使ってみて下さい。未来が見えてくるかも?