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雲上のハッピーバースデイ

森 雅志 2006.10
 この夏はハードな山行の夏であった。
七月の末に早月ルートで剣岳に登ったが、山頂まで登った後の延々と続く下りは予想を超える過酷さであった。八月の末には市役所から雄山頂上まで旧道を歩き通すという暴挙に参加した。約六十㎞を歩いたことの後遺症は酷く、二週間経過した今も筋肉痛が残っている。そうは申せ、どちらも好天に恵まれた充実の山行であった。
 そしてもう一つの挑戦がお盆に二泊三日で登った水晶岳である。太郎平小屋から薬師沢に降りて雲ノ平に至り、水晶岳を経た後は秘湯高天原温泉に向かうというルート。初めて黒部の源流に入るということもあり、大きな期待を抱いて歩いたが大感動登山であった。
雲ノ平は予想を超える素晴らしい場所だ。黒部五郎岳、三俣蓮華岳、鷲羽岳、水晶岳と連なる山々のど真ん中に神がイタズラ心で創ったのではと思わせるような台地が、まるで天上の舞台のように横たわっているのだ。僕らが歩いた朝は周囲の連山がその全容を見せてくれるという最高の日和であった。
 しかし何よりも素晴らしかったのは水晶岳の頂上に立ったことである。富山市の最高峰を極めるということを達成したのである。実は登頂の日は僕の誕生日であり良い記念にしたいと思いながら登っていたのだが、図らずも正午ちょうどに山頂に立つことができた。それだけでも嬉しいことなのに、なんと同行者が赤ワインを持参しており、早速みんなで乾杯ということとなった。富山市の最高峰で赤ワインを手にハッピーバースデイを歌うという最高の誕生日となったのである。この歳になると誕生日を誰かと祝うということは滅多に無くなる中で、むくつけき山男たちが狭い山頂で歌ってくれたのである。雲上に響くハーモニー…(?)。おそらく生涯忘れることはあるまい。有り難いことだ。
 次に向かったのが高天原温泉である。秘湯と聞いてはいたがまさに文字通りの秘湯中の秘湯であった。深山のふところに抱かれながら乳白色の湯に身を浸していると実に贅沢な気分になれる。それにしても河原の露天風呂は人の心を不思議なくらいにあっけらかんとしたものにしてくれる。たくさんの女性登山者が散策しているにもかかわらず、その視線の前で平気な顔で入浴している自分に驚いた。もともと露出癖があったのかしらん。
 などと言いながら中年登山はこれからも続いていくのだ。やっぱり山はいいなぁ!