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青春18きっぷ

森 雅志 2008.11.05
 ローマの日本文化会館において開催された富山のガラス作品などの展覧会はお陰さまで好評な様子である。僕も開会式に参加したが、沢山の人に出席してもらい盛況裏に開会できたことを嬉しく思った。会場では多くの皆さんと話したのだが、中でも一人の日本女性との会話が強く印象に残った。
 彼女は富山という地名が懐かしくて展覧会に来たのだと僕に話してくれ、50年以上も前に立山連峰の山々を頻繁に登っていたのだと言うのであった。かつての富山駅前のことや黒部ダムができる以前の奥山のことなどエネルギッシュに話してもらった。さすがにお歳を聞くことはしなかったけれど、およその年齢は推測できる。そのうえで今も登山をしているというお元気ぶりに驚いた。同時にどこにでも富山ファンがいるのだなと感じて嬉しかった。彼女は茶道の指導をしており、ローマのみならずウィーンやクロアチアのザグレブなどにも足を運んでの活躍ぶりであった。世の中には歳を感じさせない人が多いが、その代表格のような人であった。
 元気な高齢者と言えば、過日東京都美術館で出会った男性はその最たる人だと思う。この方の場合もお歳を聞いたわけではないが、70代後半ではなかろうか。ナスカの地上絵の話から始まった彼の南米17日間の旅の話しは紀行文を読むかのように面白く、引き込まれた。そして10月にはアフリカのマダガスカルに、11月にはパタゴニアに行く予定だと聞かされて驚いてしまった。僕にはまねのできない行動力である。熱い人だなあと感心させられた。
 この日も岐阜の大垣から早朝に上野に着いたばかりだと話しながら、時間がたっぷりある年寄りの一人旅にはJRの「青春18きっぷ」がお得で便利なのだと、隣の高齢者に情報提供するのであった。僕はこの瞬間まで「青春18きっぷ」は学生などが廉価で旅行するためのものだと思い込んでいたので、彼の話に聞き耳を立てていた。
 「青春18きっぷ」とはJR全線の普通・快速列車の自由席を自由に乗り降りできる切符のことで、考えようによっては時間のある人がゆったりと旅を楽しむには便利な切符だと言える。後になって調べてみたが、年齢にかかわらず誰でも利用できるうえに、全国を旅行できるにもかかわらず料金が11,500円という安さであった。彼がカバンから取り出した鉄道地図上にはそれまでに利用した路線が網の目のように色塗りされていた。彼は外国旅行だけではなく国内もくまなく歩き回っている、いわば旅の達人なのであった。
 世の中には歳を感じさせない人は沢山いる。おそらく彼らに共通するものは興味の対象にそそぐ熱い思いなのだと思う。紹介した二人の達人から僕も大いに刺激を受けた。いつまでも熱い思いでいたいものだ。(因みに「青春18きっぷ」は富山駅で買えます)