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紫煙のゆくえ

森 雅志 2010.10.05
 ご存知のように10月1日からたばこが値上げされた。たばこ税の増税によるものであり、4年ぶりの増税である。20本入りの大半の銘柄で110円から140円の値上げとなった。ところが、健康志向の高まりによりたばこの消費量が年々減少してきていたことに加え、今回の増税で禁煙、節煙の流れがいっそう加速することが予想されており、税収としては落ち込むだろうと試算されている。1本1本のたばこは大幅に増税されながらも全体としての税収は落ち込むというなんとも面白い現象が発生するのである。
今年度の税制改正大綱においても『国民の健康の観点から、たばこ消費を抑制するため税率を引き上げていく必要がある』と明記されている。国レベルでの医療費を押さえるためには消費の抑制は当然の流れではあるものの、販売量の大幅な落ち込みで葉たばこ農家や販売店、メーカーへの影響が広がりそう。
富山市に入る市たばこ税の総額見込みも減収が避けられない。現在は年額にして約24億円の市たばこ税が納められているのだが、貴重な財源であるだけにその減収は難しい問題である。いや悩ましいと言うべきか?
 そうは申せ、禁煙や節煙をしたほうが健康に良いことは今や議論をまたない。精神衛生の面から見ればたばこにも効用があるという意見も聞こえそうではあるが、身体への影響を考えれば吸わないほうが良いというのが医学的な常識となっている。
 かく言う僕自身も若い頃は喫煙していたのだが20数年前から禁煙している。もっとも僕の場合、覚悟を決めて禁煙にのぞんだというような筋の良い話じゃなく、人生最悪と言ってもよいくらいの酷い二日酔いの後遺症として二日間ほど全く食べることができず、結果的にその間はたばこを吸わなかったことがきっかけ。気が付けば三日ほどたばこを吸っていなかったことから禁断症状が出るとされる最初の三日を乗り切ることができたのであった。その後、三週間目、三カ月目、三年目と、なぜか三にからむ時期に無性に吸いたい時期があったものの何とか乗り切って20数年が過ぎたのである。もちろん今は全く吸いたいとは思わない。(ひょっとして30年目に危険な兆候が出たりしてね。)
 家族は誰も喫煙しないので自宅には灰皿がない。そう思って見わたしてみると、市長室にも応接室にも灰皿がない。庁内の分煙化が進んでいるのだから当たり前かもしれないが、
来訪されたお客様の中にはたばこを吸いたかった人もいたのかも知れないなあ。こういうことに気が付かない点が僕の欠点。自分の尺度でしか物事を見ていないということか。
それにしても喫煙者には冬の時代となっている。先日目にしたある雑誌では、大ヒットした映画「アバター」の中の植物学者がたばこをふかすシーンが批判されていた。青少年に悪影響を与えるという指摘のようだ。そこまで言うかという気もするが、どうだろう。そんなことを言い出したらハンフリー・ボガートの映画などもう見られないことになる。やがて喫煙シーンのある映画はみんなR指定になったりしてね。いや映画からもテレビからも喫煙シーンが消えてしまうのかな?
(それにしてもたばこ税の減収は悩ましいなあ。)