過去のエッセイ→ Essay Back Number

3度目の「花を召しませ…」

森 雅志 2012.03.05
 このエッセイを読み始めた人の多くは、なんて変なタイトルなのだろうと思ったに違いない。3度目とはどういう意味?と疑問を抱いたことだろう。実は過去に「花を召しませ…」というタイトルの文章を2度書いていることから今回のタイトルが「3度目の…」となった次第である。
 最初が2004年の広報に載せたエッセイ。タイトルは「花を召しませ…♪」というものだった。カミさんに花束を贈ったことを紹介しながら、花を買うことが日常化していない暮らしぶりを反省し、もっと花を贈りあいましょうと提案する内容のもの。
2度目は2005年の広報に掲載したもの。タイトルは「もう一度、花を召しませ…」だった。ブエノスアイレスの街にはいたるところに花屋さんがあり彩りを持たせていることを紹介した。花屋というよりも小さな花スタンドとでも呼べばいいような店が歩道上にたくさんあるのだ。そして仕事帰りの市民が、まるでキヨスクで新聞を買うように花束を買っている様子に驚いたことを書いていた。そのうえで、記念日じゃなくても花を買って帰宅するような習慣を定着できたら僕らの街にも花スタンドがたくさん誕生するのになあと嘆息してエッセイを閉じている。
そんな文章を書きながらも実際にはそんな風にはならないだろうと思っていた。ところが最近になって、ちょっと驚くデータを目にしたので今度はそのことを紹介したくて今回のエッセイのタイトルとなった次第。そのデータは「総務省家計調査」の中に潜んでいた。この調査の中の「切り花+園芸 都道府県別1世帯当たり年間の支出金額」という調査における2004年のデータでは、なんと富山市が第1位という結果を出していたのである。そのことを知ってかなり驚き、かつ嬉しくも感じたのだった。もっとも、その後の成績は10位台から20位台を行ったり来たりしているので2004年だけ特殊な要因があったのかも知れない。それでも、1位のことがあったことにはやっぱり驚かされるなあ。
この調査の初期の成績では富山市は最下位周辺に定着していたらしい。市内に「花き市場」が無かったくらいだから消費額が小さかったのだろう。ところが最近はショッピングセンターなどに花を販売するコーナーが多く見られる。街中にも以前より花屋さんが増えているように感じる。僕が提唱しているように、記念日に花を贈る人が増えているのかも知れない。分かり易い表現をすれば、消費額を伸ばしていく基礎体力は付いてきているのではないのか。それだからこそ2004年に1位に輝くことができたのだろう。
特別な日じゃなくても花を買って帰るような暮らし方ができる街に少しずつ変わって来たのじゃないだろうか。もしもそうなら本当に嬉しいことだと思う。街に花が溢れている風景はかなり上質な風景だと思う。停滞感や閉塞感に覆われる時代だからこそお洒落で上質で心和むような街が望まれる。花がもたらす潤いが溢れる暮らしを実現できたなら、物質欲に捉われた生き方とは違う毎日が実現するのではないのか。
この際、みんなで花を愛でながらもう一度第1位を目指しませんか。そんな街を目指す基礎体力は充分にあると思うのだけれども…。
まずは率先して今日は娘たちのために花を買って帰ろうか。