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視界良好?

森 雅志 2013.01.05
 市が費用の全部または一部を負担して市民の皆さん(国民健康保険の加入者や社会保険加入者の家族など)に検診を受けてもらう事業に健康診査事業とがん検診事業がある。誕生日や記念日などに合わせて定期的に検診を受けて自分の生活習慣を見直しましょうという仕掛けである。対象者には市から通知が届くことになっているので是非とも受診してほしいものだ。平成24年7月から検診メニューとして新たに緑内障検診が加わった。今回のエッセイはこの緑内障検診のご紹介。
 さて、最初に緑内障についておさらいをしよう。緑内障は白内障と並び中高年から徐々に増加する代表的な眼疾患。緑内障の場合は、一度傷つくと元には戻らない視神経が障害を受けるため、白内障よりも深刻な疾患なのである。わが国では緑内障が成人の中途失明原因の第1位なっているのだ。ほとんどの緑内障は年月をかけてゆっくりと進行することから異常に気付かないケースが多い。また、どちらかの目に異常があっても、もう片方の目が補完するため異常に気付かないことがほとんどだそうである。いずれにしても、発症したまま放置しておいて、気付いたときには手遅れで失明ということになりかねないという恐ろしい疾患なのである。しかし治療をすればそれ以上に進行しないように抑えることが可能なのである。残念ながら元に戻すことはできないけれども、それ以上悪くしないことはできるということだ。つまりは早期発見が大切だということになる。
 少しずつゆっくりと視野が狭くなる症状を自分で早期発見しろと言っても難しい。やっぱり定期的に検診を受けることがポイントとなるだろう。勤務先で定期健診や人間ドックなどの機会のある人はともかく、国民健康保険の加入者などはそういう機会がないことから、先に述べた検診事業のメニューの中に緑内障の検診を加えたという次第なのである。
 45歳・50歳・55歳という節目年齢の該当者の方に市から通知を出して緑内障検診を呼びかけたところ、次のような結果となった。対象者数5,936人に対する受診者数は513人。受診率は8.6%。この数字は他の検診メニューと比べて高いというわけではないものの、受診の結果として要検査と診断された人が120人、率にして23,4%もいたのである。緑内障以外の疾患が見つかった人を合わせると143人、27,9%にもなるのだ。この割合を他の検診メニューのそれと比較すると非常に高いものとなっている。つまり潜在している発症者やその予備軍がいかに多いかということを物語っていると思う。要検査となった人が治療を受けてもらえたなら発症を防ぐことや進行を止めることができるのだから検診メニューに追加した成果は大きいものがあった。経済界リーダーのある方の勧めでこのメニュー導入を決めたのだが有り難かったと思う。
 もとより病気にならないように注意することは自分自身の責任だ。健康診断や検診も自己責任の問題である。そうは申せ、市が助成する検診メニューを増やせば要検査となる人の発見に繋がることも事実である。問題は財源の確保をどうするかということと、制度の対象外となっている市民とのバランスの取り方にある。難しい問題だと思う。
まずは既存の検診メニューの受診者が増えることを望みたい。今回の例がきっかけとなり検診の受診者が急増して予算の追加が必要になればそれはそれで良いことなのだから…。