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グッバイ・ドーリー!
森 雅志 2013.11.05
8月にオーバード・ホールと東京芸術劇場で上演されたミュージカル「ハロー・ドーリー!」は大成功であったと思う。
昨年2月に富山市民文化事業団がオーバード・ホールで初演した際の評価が高く、多くのミュージカル関係者から絶賛されていた。中には再演を望む声も多くあったのだが、富山市としてそれを実現するには費用の面などから困難であり、諦めざるを得ないと思っていた。それが東京・池袋にある東京芸術劇場から要請があり、また文化庁の支援が得られることになったため実現することとなったのである。地方都市が市民参加で作り上げたミュージカルが東京で再演された意味は大きいと思う。地方発の文化事業が都会に打って出たことになるからである。演劇やミュージカルなどの専門誌の評価も高く、いくつかのミュージカル評の欄において「日本のミュージカル制作の歴史において、非常に意義のある成果をあげた。」とか「地方発の快挙」などと絶賛されたことを素直に喜びたいと思う。
公演は富山市民文化事業団が5年計画で進めている「名作ミュージカル上演シリーズ」の一環であり、他にも「回転木馬」や「ミー&マイガール」などを上演してきたところである。オーバード・ホールは3面半の可動舞台を有する素晴らしい劇場であり、呉羽には富山市民芸術創造センターという稽古場施設もある。この恵まれた資源をフルに使って総合芸術とも言うべきミュージカルに挑戦してきた市民文化事業団の取り組みが、功を奏したと言えよう。プロデューサーである奈木芸術監督の労を評価したいと思う。「ハロー・ドーリー!」は日本における翻訳上演について著作権者の許諾が下りず、長らく未上演であった。それを奈木監督が要請をして許諾を得たということを特筆しておきたい。
さらには「富山スタイル」とでも言うべき制作過程に注目したい。ありがちな市民参加型のミュージカルにとどまらず、プロ・アマを問わないオーディションで出演者を集め、ニューヨークから招聘した演出家をはじめとした一線級のスタッフを配したうえで、富山と東京での約3ヵ月にわたる稽古で仕上げているのである。そこに富山市民で編成されたオーケストラが加わり、さらには富山工業高校のブラスバンドが参加するという構成となっている。演出のロジャー・カステヤーノ氏は大満足だと笑みを浮かべていた。
池袋での公演は俳優たちの演技に磨きが掛かっていたと思った。また、オーケストラの演奏が素晴らしかったと思う。劇場がオーバード・ホールよりもコンパクトであったことも影響しているのかもしれないが、いい音を出していた。そして富山工業高校のブラスバンドである。溌剌とした演奏が光っていた。昨年の公演の後、卒業したメンバーもいたはずであるから再演が決まってからの練習であったに違いない。短期間によくぞあそこまで仕上げたものである。立派だと思う。
何よりも評価しなければならないのは「剣 幸」という女優の存在である。かつての宝塚歌劇団トップスターの経歴に加え、ミュージカル女優として素晴らしい光を放っていると思う。富山が誇るべき存在である。これからも富山発ミュージカルを支えてほしいものだ。
そうはいえ、「ハロー・ドーリー!」の再再演を望む声に応えるのは困難である。さすがに文化庁の再再支援はありえないからだ。そこで本稿のタイトルを「グッバイ・ドーリー!」とせざるを得なかった次第なのだが…。
昨年2月に富山市民文化事業団がオーバード・ホールで初演した際の評価が高く、多くのミュージカル関係者から絶賛されていた。中には再演を望む声も多くあったのだが、富山市としてそれを実現するには費用の面などから困難であり、諦めざるを得ないと思っていた。それが東京・池袋にある東京芸術劇場から要請があり、また文化庁の支援が得られることになったため実現することとなったのである。地方都市が市民参加で作り上げたミュージカルが東京で再演された意味は大きいと思う。地方発の文化事業が都会に打って出たことになるからである。演劇やミュージカルなどの専門誌の評価も高く、いくつかのミュージカル評の欄において「日本のミュージカル制作の歴史において、非常に意義のある成果をあげた。」とか「地方発の快挙」などと絶賛されたことを素直に喜びたいと思う。
公演は富山市民文化事業団が5年計画で進めている「名作ミュージカル上演シリーズ」の一環であり、他にも「回転木馬」や「ミー&マイガール」などを上演してきたところである。オーバード・ホールは3面半の可動舞台を有する素晴らしい劇場であり、呉羽には富山市民芸術創造センターという稽古場施設もある。この恵まれた資源をフルに使って総合芸術とも言うべきミュージカルに挑戦してきた市民文化事業団の取り組みが、功を奏したと言えよう。プロデューサーである奈木芸術監督の労を評価したいと思う。「ハロー・ドーリー!」は日本における翻訳上演について著作権者の許諾が下りず、長らく未上演であった。それを奈木監督が要請をして許諾を得たということを特筆しておきたい。
さらには「富山スタイル」とでも言うべき制作過程に注目したい。ありがちな市民参加型のミュージカルにとどまらず、プロ・アマを問わないオーディションで出演者を集め、ニューヨークから招聘した演出家をはじめとした一線級のスタッフを配したうえで、富山と東京での約3ヵ月にわたる稽古で仕上げているのである。そこに富山市民で編成されたオーケストラが加わり、さらには富山工業高校のブラスバンドが参加するという構成となっている。演出のロジャー・カステヤーノ氏は大満足だと笑みを浮かべていた。
池袋での公演は俳優たちの演技に磨きが掛かっていたと思った。また、オーケストラの演奏が素晴らしかったと思う。劇場がオーバード・ホールよりもコンパクトであったことも影響しているのかもしれないが、いい音を出していた。そして富山工業高校のブラスバンドである。溌剌とした演奏が光っていた。昨年の公演の後、卒業したメンバーもいたはずであるから再演が決まってからの練習であったに違いない。短期間によくぞあそこまで仕上げたものである。立派だと思う。
何よりも評価しなければならないのは「剣 幸」という女優の存在である。かつての宝塚歌劇団トップスターの経歴に加え、ミュージカル女優として素晴らしい光を放っていると思う。富山が誇るべき存在である。これからも富山発ミュージカルを支えてほしいものだ。
そうはいえ、「ハロー・ドーリー!」の再再演を望む声に応えるのは困難である。さすがに文化庁の再再支援はありえないからだ。そこで本稿のタイトルを「グッバイ・ドーリー!」とせざるを得なかった次第なのだが…。