過去のエッセイ→ Essay Back Number

フットパス さあ、歩こう

森 雅志 2015.07.05
 イギリスには、フットパスと呼ばれる歩行者専用の道がある。牧場や森林などの田園地帯から市街地の緑地帯までイギリス全土に網の目のように道が張りめぐらされている。そこでは歩くという権利が認められているので、たとえ私有地であってもフットパスと認められていれば誰でも自由に通行できる。イギリスの人たちにとってフットパスとは健康づくりやレクリエーションの場であり、自然を大切にしようとする一つの文化であるとも言える。地域のありのままの風景を楽しみながら散策することで、その土地への愛着を醸成する大いなる知恵だとも言えよう。そのために歩くこと(Foot)ができる小径(Path)がフットパスなのである。また、単に小径の呼称にとどまらず、楽しみながら歩くこと自体をフットパスという場合もあるらしい。
 最近は我が国においても、これまであまり知られていない地域の魅力を再発見することや、健康づくりの面での効果を狙ってフットパスを導入することが広がりを見せているのである。もちろん国内での取り組みの場合には私有地の中を勝手に歩き回ることは出来ないので、既存の散策路などを使いながらの取り組みとなっている。
 そこで富山市においてもフットパスに近いことができないかと検討をしてきたのだが、呉羽丘陵をその舞台と位置付けることとし、昨年度から「呉羽丘陵フットパス」として掲示板を設置するなどの取り組みを始めたところである。呉羽丘陵は富山平野の真ん中に南北に横たわり、県内を呉東と呉西に分かつためのシンボルである。そして北から南まで尾根を貫く散策路が整備されている。散策路には里山の自然を感じることのできる雑木林や、立山への展望が開ける眺望スポット、白鳥城址や古沢塚山古墳といった歴史遺産などが点在し、フットパスとしてふさわしい魅力を備えている。しかしながら、今までは市民に対する周知が不十分であったり、市民を散策路に誘導する仕掛けが不足していたりして、貴重な都市資源とでも言うべき価値を生かし切れていなかったと思う。
 そこで今回フットパスと位置付けることによって資源が持っている価値を光らせることを企図した次第なのである。そのために散策路内の約50ヵ所の案内看板のリニューアルをしたほか、呉羽丘陵の玄関口である多目的広場内のビジターセンターにフットパスについての説明や注意事項などについての掲示をするとともに、散策路のルートなどを解説するリーフレットを作成し丘陵内の各施設に配布することとした。ぜひとも多くの人に知ってもらってフットパスを散策する人が増えていくことを期待したい。さあ、まずは歩き出してみよう。休日の過ごし方としては本当におすすめだと思う。ぜひとも、お試しあれ。
 さて、このルート上の白鳥城址あたりは僕が子供の頃の遊び場であった。散策路の様子は知り尽くしている。おいしいグミの木の場所は今も忘れていない。内緒の山菜採取地も思い出すことができる。「呉羽丘陵フットパス」とはそういう場所なのである。実に奥の深い場所なのだ。ところで、呉羽丘陵を分断しているのが旧国道8号線の切り割りである。道路を造るために丘陵を割ったことから散策路が遮断されてしまっているのだ。フットパスの完成度を上げるためにはここにかけ橋を架けることができたらいいなあと思っている。夢のまた夢ではあるが…。もし実現できたなら、フットバシ(橋)とでも名付けますか?