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お気に入りの絵と出会う時

森 雅志 2015.10.05
 黒部市出身でパリ在住の戸出善信という画家がいる。この方がパリのユネスコ本部の依頼で作成した黒部川の水流を描いた作品が黒部市美術館に常設展示されている。インテックビルにも素晴らしい紫陽花の大作が掲げられている。偶然にこの作家と日本橋のデパートで会って以来かすかな交流が続いている。その後、この方のパリの四季を描いたリトグラフの連作をある方から譲っていただいた。以来、季節の変わる時期になるとわが家の壁に掛けてある絵を取り替えるのが僕の楽しみとなっている。先日も「パリの夏」から「パリの秋」の絵に取り替えた。その瞬間から僕の心も秋色に染まっていくのである。
 射水市にあるゴルフ場の脱衣室にいつも掲出されている高塚省吾という画家の裸体画もお気に入りの一つである。清楚な表情の女性に季節感が漂うスカーフなどが添えられている構図に惹かれてしまう。何年も探してパステル画を一点と画集を手に入れることができた。こちらもまた季節の変わり目には画集から選んでは掛け替えている。この作業もまた僕の楽しみの一つなのである。
 さて、数年前から写実画が人気となっている。写実画というジャンルには静物や風景を題材としたものもあるのだが、今のブームをけん引しているのは何といっても女性像、美人像だと思う。十年ほど前に雑誌「美術の窓」で塩谷 亮という作家を知って以来、この作家に魅せられてしまい、展示会に通った時期があった。おかげで本人とも奥さんとも出会うことができた。女性のしなやかな肉体が生み出す優美なラインがこの作家の魅力だと思う。寡作な人なので作品を手に入れることは出来ていないのだが今後も注目して行きたい。
 この人の作品を追いかけているうちに、千葉市にあるホキ美術館の存在を知った。日本で唯一の写実画専門の美術館である。現代写実画の代表的な作家の作品が集められているのだ。展示されている作品群を俯瞰することができることがここの魅力だと思う。建物が素晴らしいこともここの特徴である。お薦めの美術館の一つである。
 先に紹介した塩谷 亮という画家の作品も含めて、人気の作家の作品は評価が上がるにつれ価格も高騰し、とても僕の手に負えなくなってしまった。それなら若手の作家を追いかけようと思い、「写実画のすごい世界」というタイトルの雑誌を購入した。この本には巨匠から精鋭、若手にいたる作家たちの作品が紹介されている。そこで見つけたのが中島健太という若い作家である。雑誌に掲載されている「あの話の続き」という作品に魅せられてしまったのだった。朝の光の中で横たわるどこかで見覚えがあるような女性の姿。その透明感に惹かれたのである。そしてその数日後、偶然にも僕はその作品に出会ったのだった。富山の若者が銀座にお店を出したと聞いて激励に行った際、通りかかったある画廊のディスプレーにこの作品が掲出されていのだ。僕はすぐにその画廊に飛び込んでいた。画廊の敷居の高さが気にならなかったことが不思議であった。作品との運命的な出会いを感じた僕はその場で購入を決めたのである。以来、何点か買うことができ、作家本人とも交流を深めることができている。そしてこの交流こそが僕の宝物となっている。
 美術との出会いはさまざまな形がある。そしてどの出会いも作品とともに色あせることがない。すべては忘れ得ぬ思い出であり宝物なのである。ときどき絵を掛け替えながらそんなことを思っている。美術の秋深し。