裏庭のいつも目につく場所に、背丈が1メートル以上ある茎の先端に花の直径が10センチメートル以上の大きさの白いラッパをつけたユリが今年も咲いた。わざわざ植えた訳でもないのに一昨年から咲くようになった。先日、携帯で写真を撮り、職員に調べてもらったところ「タカサゴユリ」という種類らしいことが分かった。おそらく「高砂百合」と書くのだろう。一本の茎に三つ、四つの花をつけたものが4本咲いていた。おそらく数年前に風に乗って種子がどこかから飛んで来たのだろうなあ。 一昨年の6月にこの茎が伸びていることに初めて気付いた。あれよあれよという間に伸びていき、8月の中旬に白い大きな花が咲いて驚いたことを憶えている。そしてその時期に亡くなったカミさんの病気が見つかったのだった。それから一年が過ぎた去年の夏はカミさんが苦しみながら闘病を続けていた。「この花が咲いた時期に病気が見つかったんだな。」と思うと伸びていく茎を見るのが辛かった。少しづつ進行していく病状に耐えながら見舞ってはいたものの内心では覚悟していた。ある朝、やがて咲く白い花が弔いの花であるかの様な思いに囚われ、耐え切れず4本の茎を切ってしまったのだった。まだ花が開く前の茎はみずみずしく生気を放っていた。罪を犯したような気分であったものの、一日でも生き長らえて欲しいとの思いが僕を動かしていた。誰にも話さず今日まで来たが…。そして今年、心配していたがちゃんと茎は伸びてきて立派な白い花がいくつも咲いてくれた。去年のことを思い出しながら毎日朝夕に花を見てきたが、昨日の夕方に見てみると、最後の花が落ちて抜け殻のような莢が姿を出していた。放っておいて莢の中の種子がそこらに飛び散りあちこちで繁殖しても困ると思い、今朝早くに4本の茎に鋏を入れた。それから仏壇の前に座り線香に火をつけながら散ってしまった白い花を思い出していた。1年が過ぎたのである。
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